前回は債権の差押の際に債務者側から「今月は待ってくれ。」と申し出る事ができる制度があることを債務者に教えなくてはダメだよ!という民事執行法の改正をお話ししました。
(令和2年4月1日施行)
今回も同日に改正された同じく債権執行についての論点です。
1) 前回のおさらいと期間について
現行法では、給与を債権差押として差押えできますが、債務者に配慮して、4分の1しか差押えできないとされています。
つまり4分の3は差押え禁止となっています。
ただ、例えば10万円の給与の場合、4分の1だと2万5000 円差し押えられてしまうので、そうすると生活が苦しいと思います。そういった場合のために、現行の制度としては差押禁止債権の範囲の変更の申立てという手続があります。
ここまでは前回もお話ししましたが、これは債務者だけでなく債権者からもできます。
要は差押え禁止の部分を変更できるという制度です。
ただ、これが十分活用されていないと指摘されており、法的な知識が足りない債務者が多く、制度が十分周知されていない為、これを周知させようとした改正でした。
債権執行では、差押命令が債務者に送達されてから1週間を経過すると取立権という権利が発生します。
差押えがされたことは、債務者に送達されますが、差押禁止債権の範囲の変更の申立てをしようと思っても、取立権が発生するまでの1週間ではなかなか申し立てられないことも指摘され続けていました。そこで!
2) 取立権の発生時期の後ろ倒し
そこで今回、取立権の発生時期を見越して期間を伸長する改正がされました。
差押えの対象が給与等の債権である場合には1週間を4週間に後ろ倒ししています(第 155条第2項)。
よって、預貯金債権が差し押えられた場合は関係ありませんが、給与が差し押えられた場合には、債務者の生活の保護という観点から債権者は4週間経たないと取立てができません。
ただし、これには例外があります。
差押債権者が持っている請求債権の種類が養育費の場合には、4週間も待っていては、差押債権者の生活が苦しくなってしまうことを考慮して、現行法どおり1週間となっています。
つまり、通常の債権は基本的に1週間ですが、給与に関しては4週間にした上で、一方で差押債権者の持っている請求債権が養育費請求権の場合には1週間のままになっています。
養育費の場合は、債務者の給与を考慮して養育費の金額を決めているので、払えないということが想定されにくく、また、養育費は子の生存にとって極めて重要ですので、必要性が高いものとして、現行法どおり1週間になっています。
債権執行では、その他にも転付命令、額面がないものは譲渡命令、配当といった換価方法が定められていますが、これらについても、債務者に対して差押命令が送達された日から4週間と、効力の発生時期が少し後ろ倒しにされています( 新第159条第6項、第161条第5項及び第166条第3項)。
(3) 手続の教示に関する規定の新設
(新第145条第4項)
先述した通り、差押命令を債務者に送達するときに裁判所書記官が差押禁止債権の範囲の変更の申立てに係る手続きを教示するという制度が設けられましたが、どんな内容を教示するのかは、最高裁判所規則に委ねられているところではあります。
恐らくは書記官が差押命令を送るときに、書面を入れて、「こういう制度がありますよ」と周知させることで債務者の保護を図ることになるかと思われます。
債務者財産の開示制度の実効性の向上では債権者の地位を強化していますので、債務者にもこういった形で配慮する法改正を同時に実現していることになります。
最後までお読み下さりありがとうございます。
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