所在等不明共有者の持分の取得
今回も民法共有の新設された制度についてご紹介させていただきます。
今回は所在が不明となった共有者に対し裁判をし、その持分が取得できる事となりました。これは事実上タダで土地の持分や建物の持分を取得することができるのか?どのような要件を満たせばいいのか?全く新たな制度ですのでしっかり見ておきたい規定です。
それでは見ていきたいと思います。
他の共有者の持分の取得方法
従前までの規定により(旧法)共有者型の共有者の持分を取得するため方法は以下の3つが存在しました。
- 裁判所の判決による共有物分割
- 共有者全員の協議(合意)による共有物分割
- 他の共有者から任意で持分の譲渡を受ける
共有者が所在不明のケースでは①の判決による共有物分割は可能であるが、全ての共有者を当事者として、訴えを提起しなければならないなど手続上の負担が大きい事がネックでした。
②の合意による共有物分割、③の任意譲渡は、不在者財産管理人等の選任をしない限りする事ができず、管理人の報酬等に要する費用負担が問題となっていました。さらに共有者の氏名等が不特定のケースでは、旧法ではそもそも対応できないことが問題となっていました。
そこで。新たな規定が新設されました。
(所在等不明共有者の持分の取得)
第262条の2
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
2 前項の請求があった持分に係る不動産について第258条第1項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ 、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。
3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、第1項の裁判をすることができない。
4 第1項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。
今回も一つ一つ見ていきましょう。
まずは1項からです。
共有者は裁判所の決定を得て、所在等不明共有者(行方不明、氏名等不特定を含む)の不動産の持分を取得することができるものとしました。(新民法262の2)
この時、所在不明共有者は、持分を取得した共有者に対する時価相当額の請求権を取得します。(4項)実際には供託金から支払いを受ける事が想定されています。差額がある場合には、別途訴訟を提起するなどして請求する事も可能としています。
本規定の適用は不動産に限定されております。すなわち土地、建物が数人の共有に属する場合のみを対象としていますが、使用収益権に対しても5項のとおり、適用が認められています。
2項、3項は遺産共有のケースです。
2項では、所在等不明共有者の持分を含む共有物について、裁判による共有物分割、または遺産分割の手続きと所在等不明共有者の持ち分の取得手続との役割分担を規定しています。
3項の遺産共有のケースでは相続開始から、10年を経過しなければ利用することができません。なお、前回ご紹介した、「新民法第258条の2」における「相続開始から10年経過」と条文上の構成が異なる点に注意を要します。
10年経過を適用除外とした趣旨
所在等不明共有者の持ち分が、相続財産に属する場合所在等不明共有者の持ち分の取得制度を利用した場合には、請求をした相続人(共有者)は所在不明相続人の共有持分権を取得し、他方で所在等不明相続人は、その共有持分に相当する賠償金請求権を取得します。
そして相続人が、自己の共有持分権を他者に譲渡した場合と同様に、この取得の対象となった持分権は、遺産分割の対象から除外されることとなると解されます。このような扱いをすると当該共有持分権については、相続人の遺産分割上の権利(特別受益や寄与分を加味した具体的相続分を主張する権利)が失われる事になる。
持分取得の裁判手続においては、広告等を実施して所在等不明共有者や他の相続人(共有者)の手続保障が図られているものの、所在等不明相続人からの遺産分割上の権利を奪うことを正当化するには不十分である。
そこで具体的相続分の主張機関である10年が経過するまでは所在等不明競技者の持分の取得制度の適用対象から除外することとなりました。
5項は使用収益権を共有するケースとなります。
ここは先述しましたが、不動産を対象とした場合にはその使用権についても認めないと、結局当該不動産の利用に支障きたす恐れがあるため、所有権を除く不動産の使用収益権が、数人の共有に属する場合も対象となりました。
以上、少し長くなりましたが、今回はここまでです。