劣悪な環境で犬469匹虐待 販売業者の元社長を逮捕・起訴
松本市では犬の販売業者が900匹以上を劣悪な環境で飼育していた問題が発覚し、元社長が逮捕され、犬469匹を衰弱させたとして虐待の罪で起訴されたニュースがありました(2021年12月に保釈)
「1週間食べられなかった子も…」犬469匹虐待 元従業員が語る悲惨な実態…問われる行政の責任【長野発】
昨今、問題になっているブリーダーの虐待事件ですが、先日の続報を見ていますと気になる点がいくつかございましたので本日はこちらを紹介します。
長野・松本市で起きた犬の虐待事件の続報。多くの犬を劣悪な環境で飼育・虐待した罪で元社長が起訴されたが、刑事告発した動物愛護団体の理事長・杉本彩さんらが検察を訪れ、より罪の重い殺傷罪での立件を申し入れた。
杉本さんの団体は業者を刑事告発しているが、影響の大きさからもこの起訴だけでは「不十分」としている。
タレントで杉本彩さんは動物愛護団体の理事長だったんですね。これは知りませんでした。さらにいうと、「殺傷罪」という聞きなれない刑法にはない罪名が出てきました。
これは?と思い今回は調べてみました。
- 「殺傷罪」とは?
動物愛護法管理法第44条
1 愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
と、あります。
日本の法律では動物は動産として扱われます。つまり「モノ」であってそれ以上でもそれ以下のもでもありません。気持ち的には到底納得できませんが、例えば、飼っているペットが殺されたとしても、これは器物損壊罪(刑法261条)として扱われます。
これは、「私の所有したものが壊されたのでお巡りさん。逮捕してください。」と、この様に扱われるわけです。
ただし、ペットを殺したのが飼い主だとしたらどうでしょう。
自分の所有物を壊しても、なんの罪にも問われません。これは当たり前ですね。しかし動物愛護管理法ではこうはいきません。
愛護動物を殺傷した罪
動物愛護管理法44条1項では、愛護動物をみだりに殺すこと、又は愛護動物をみだりに傷つけることが犯罪とされています。
民法等を原則的な法「私法」としながらこの動物愛護法のような「特別法」がある場合には特別法を優先させます。
つまり、客体が動産であったとしても、この動産が愛護動物である場合には、この特別法を適用します!
愛護動物とは?
44条4項でこの様に規定しています。
- 4 前三項において「愛護動物」とは、次の各号に掲げる動物をいう。
① 牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
② 前号に掲げるものを除くほか、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの
1号動物
1号では、牛、馬、豚、めん羊、やぎ、犬、ねこ、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひるの11種類が定められています。
類型的にみて、人間によって飼養されることが予定されている動物たちです。飼い主がいなくても、例えば、野良猫などのように人間の生活圏内で人間とともに暮らしている限りは含まれると考えられています。野生化した動物については含まれていないと解釈されています。いえばとは、カワラバトのことだそうです。(?)
2号動物
2号では、人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するものが対象とされています。
動物愛護管理法は、以前、「動物の保護及び管理に関する法律」という名称でした。その時には、対象となる動物に爬虫類は含まれておらず、「動物の愛護及び管理に関する法律」という現在の名称に変更された際に、対象となる動物に爬虫類が含まれることになりました。現在も、対象となる動物には、無脊柱動物は含まれておらず、脊柱動物のうち両生類、魚類も含まれていません。
ドイツの動物虐待罪では、脊柱動物すべてが対象動物とされているそうです。日本で両生類、魚類が含まれていないのは、ペットとしての飼養の状況やそれに係る社会通念などを勘案して線引きをおこなったとされている様です。
魚なら虐待していいのか!?と、魚類を愛好するさかなクン達が怒り、将来的には対象に含まれる改正がなされる未来までは見えました。
殺傷罪の対象となる行為
罰則の対象となる行為は、みだりに殺すこと、又はみだりに傷つけることです。
「みだりに」というのは、正当な理由がある場合、つまり社会通念からみて多くの人が納得し得る目的の下にその目的の範囲内の殺傷を除外するための規定です。
例えば去勢手術は犬や猫の体を傷つける行為ですが、これは同法で言及されていることからみだりに傷つける行為といわないでしょう。
ドーベルマン、ヨークシャーテリアなどの一定の犬種に対し行われることがある断耳、断尾は、ヨーロッパでは原則として禁止とされている国も多いようです。伝統が変化してきているということになります。
日本でも、社会通念の変化にともなって、美容目的での断耳や断尾が、愛護動物をみだりに傷つける行為と解釈される余地はあり得ると思います。
罰則
5年以下の懲役刑又は500万円以下の罰金刑が法定刑として定められています。
以前は、1年以下の懲役刑又は100万円以下の罰金刑でしたが、改正により罰則が強化されました。
両罰規定があり、動物殺傷行為が法人の役員や従業員などによって法人や人の業務として行われた場合には、その法人や人に対しても500万円以下の罰金刑が処されます(動物愛護管理法48条2号)。
こうみてみますと今回の事件はこの44条の規定が適用されてもおかしくない様な気もしますが、判例は見当たりませんでした。またこの件の続報がありましたらこちらでお知らせできたら。と思います。
今回はここまでです