認知
ケースとしては前回に引き続きとなりますが、今回のテーマは認知です。
前回新生児取り違え事件が日本では珍しくなく、それにより悩み、苦しんでいる方々が意外とこの国に多くいます。
というお話をしました。今回は血の繋がった真の親を見つけた時、法律上の観点からどの様な手段を取ることができるのでしょうか?
ケースは前回に引き続き(Aさん30歳、病院で取り違えが起き、それを知ったのは成年の時に育ての親に告げられた)とします。
Aさんは血の繋がりがないことを知らない両親に育てられました。親がその事に気がついた時に、親の方からこの子はうちの子ではない。と縁を切り、法律上の扶養義務や、相続権を子から奪う事はできない事は前回にお話しした通りです。民法の親族編では子供の利益を最優先します。これは子も同じで子の側からも未成年の間に、扶養を放棄すること、相続開始前に相続放棄することもできません。
※(ある一定の要件があれば親権喪失の審判を請求する事はできます)
ですが、親が子を認知する事によって、法律上、親子関係を結ぶことができます。
もし真の親が現れた際に、真の親がAさんを認知することができれば複雑な話ではありますが、法律上でも親子として生きていくことが可能ではないでしょうか?
認知とは?
法律上で婚姻している夫婦から生まれた子は、嫡出子(ちゃくしゅつし)として戸籍上の届出が行われます。その結果として、嫡出子には法律上の実父母が出生時から存在します。
一方で、婚姻していない男女の間に生まれた子は、出産の事実によって母親は明らかになりますが、父親が法律上では明確になっていません。
そうしたときに、父親が生まれた子を自分の子であると認める(認知する)ことによって、はじめて法律上の父親が定まることになります。
子が胎児であるときの認知の手続きでは、母親の承諾が必要になります。また、認知するときに子が成人しているときには、その子本人の認知に関する承諾が必要となります。
父親がその責任によって自ら認知してくれたらよいのですが、父親側に事情があるなどして、なかなか認知をしてくれないこともあります。
父親が自ら認知をすることを「任意認知」といい、子が、裁判所への認知の訴えによって認知を求めることを「強制認知」といいます。任意認知が期待できない場合は、家庭裁判所に対して認知する調停の申し立てができます。
申立権者
この、認知の申し立をする事ができるのは、子本人のほか、直系卑属、法定代理人も対象になります。父親の死亡後にも認知の請求はできますが、死亡後3年以内に限られます。家庭裁判所での調停によっても認知されないときには、認知の訴えを起こすことになります。
父親に事情があって生存中に認知できない場合、遺言によっても認知することができます。遺言の認知により、法律上の親子関係がさかのぼって成立します。そのため、認知された子はその父親の相続権を取得します。
生前における事情から認知できなかった父親として、最後の気持ちを子に対して示すことができることになります。
しかし本ケースでは残念ながら、親側からの認知、又は、子の側からする強制認知の訴えによって法律上の嫡出子になる事はできません。
【民法779条(認知)】
嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。
この条文を見てわかる様に、Aさんは血の繋がってないとはいえ、育ての親の嫡出子なのです。
他所の嫡出子を自分の嫡出子とする事はできません。
つまりAさんを認知することも、Aさんが真の親を強制認知によって訴える事もできないのです。
父を定める訴え
第733条第1項【再婚禁止期間】の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によりその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。
上記733条のこの様な規定も存在しますが、今回のAさんのケースには適用できないでしょう。
結論を言うとAさんが真の両親と法律上の親子関係を築くには養子縁組をするしか手がない様です。
真の親子でありながら養子縁組しなくてはならないというのもなんだかモヤモヤする話ではありますが、民法ではこの様な場合を想定してないのです。
養子縁組については過去のブログを参照ください。↓
https://kubohiro.com/archives/99
世の中には法律が想定していない様な考えにくい事柄が溢れています。
今回紹介したケースでも、本人たちの気持ちさえあれば法律上の親子関係を結ぶことなど必要ないのかもしれません。知らぬが仏の世界もあるでしょう。
ですが、知っているだけで莫大な遺産を相続できたり、病院に対しての損害賠償を請求できるなど、もしかしたら得をする事もあるかもしれません。
何か困った事や、気になる事があれば専門家への相談を考えてみてはいかがでしょうか。
今回はここまでです。
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