相続財産等の管理 前編
ここのところ当ブログでは、民法の2021年改正について、ずっと触れておりますが、相続編の分野においても、今回の改正により新たに新設される規定や、改正される規定がとても多くあります。
相続においても前回同様何回かに分けて触れていきたいと思っておりますのでお付き合いいただければ幸いです。
それではまずは「相続財産の管理」についてから見ていきましょう。
(相続財産の保存)
第897条の2
1 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第952条第1項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
2 第27条から第29条までの規定は、前項の規定により 家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
旧法では、相続財産が相続人によって管理されない場合に備えて、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任するなど、相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを相続の段階ごとに分けていました。
- 相続開始後、相続の承認又は放棄がなされるまでの間の相続財産の管理 ⇨ 旧民法918条
- 相続の承認をしたが遺産の分割がされていない相続財産の管理 ⇨ 規定なし
- 限定承認がされた後の相続財産の管理 ⇨ 旧民法926条
- 相続の放棄後、次順位者が相続財産の管理を始めるまでの相続財産の管理 ⇨ 旧民法940条第2項
- 相続人のあることが明らかでない場合における精算を目的としない相続財産の管理 ⇨ 規定なし ※精算を目的とする相続財産管理制度のみ存在。民法952条以下
上記のとおり、共同相続人による遺産共有状態であるケース②や、相続人のあることが明らかでないケース⑤については規定がなく、保存に必要な処分ができませんでした。
また相続人のあることが明らかでないケースについては従来から民法第951条以下に規定が置かれていたが、当該規定に基づく相続財産管理制度は精算を目的とするものである為、手続きが重く、コストもかかることから、土地を含めた相続財産を適切に管理しようとしても、この制度を利用することができない場合があるとの指摘がありました。
そこで、今回新法では、包括的な相続財産管理制度を創設し、②や⑤のケースに対応できる相続財産管理人を選任することができるようにしました。
包括的な相続財産管理制度の創設
相続が開始すれば、段階に関わらずいつでも家庭裁判所は、相続財産の管理人の選任、その他の相続財産の保存に必要な処分をすることができるとの包括的な制度を創設しました。
これに伴って民法第918条の2項、3項が削除されました。
相続財産管理人の名称変更
そして今般の改正により、相続財産の精算を目的としない相続財産管理人の選任が可能になったことから、民法952条第1項に基づき、選任される相続財産管理人の名称が「相続財産の精算人」に改められました。
今回はここまでとします。
続きは次回後編で!